前回触れたアスリートの視覚機能のエピソードから発展して、
今回は視力とスポーツについて掘り下げてみようと思います。
視力とスポーツの関係性は、競技によって変わっていきます。
特に視覚機能を必須とするスポーツは、野球になります。
野球は他の競技と違い、固定で安定した場所からのゲームが少なく、
視覚的フィードバックやフィードフォワードの情報を常に入力し、 臨機応変に対応していかなければならないからです。
バスケットボールのフリースローやサッカーのPKなどは、定められた場所からのプレイになります。
たくさんの練習を積み重ねていれば、その定められた位置からのプレイを多く経験していることになります。
非常に慣れた経験は「視覚を遮断」し、「感覚を優先する」ことで正確に実行していくといわれています。
そのように決まった距離からの発信と着地で同じ動作のプレイを野球でいうと、走塁くらいでしょうか。
球の速さ・変化・投手の利き手など状況に変化が生まれるので、
常に正確なフィードバックで更新していかなければいけません。
ぼやけていても凡そ上手には出来るでしょう。 しかし、ちゃんと見えている人の経験には到底勝てません。 上手になるまでには「ちゃんと見えている」かが重要であり、 そのちゃんと見えている期間や経験が必要です。 脳は外部入力を感覚に頼っているので、 崩れたフィードバックが行われていると不一致が生じ、スランプへの道標にも繋がりかねません。
細胞の話
「静的立体視」は、眼の中心に両眼とも焦点が合っている状態を指します。
このときは文字を見る、色を感じるなどの機能を果たし、身体は緊張をさせます。
「動的立体視」は眼の中心に両眼とも焦点が合っていて、且つ周辺の視野を使って見ている状態を指します。
網膜の周辺部から始まり、周辺視野、色のコントラスト、夜間時の視力、動くものを捉え、身体を反応(動く)させる機能を果たします。
普段から「見ろ!」という指導をしていると、静的立体視での機能を感覚的しがちになるので、見るというフレーズの指導はイコール緊張を促すことになります。
身体の構造からして、「見る」という言葉に複数の機能が混在しているので、そこを理解し言葉の選択にも注意をしなければなりません。
機能の話
「フォワードバック」は見て動いたものに対して行動を決定することです。 「フィードフォワード」は動く方向と次の行動を先に推測し決定することです。 スポーツをする時、この機能を上手に使っていきます。
例えば、フェイントに簡単に引っかかってしまうなどあと一歩が遅い・足りないというプレイに該当する方は、フィードフォワード機能が著しく弱い、または経験が不足している状況です。
野球でソフトボールを打てない選手、バスケットでフェイントに簡単に引っかかってしまう初心者などが分かり易い例ですね。
野球に動体視力は必要ない?
球速が145キロ付近を超える領域から、人は動体視力で打っていません。
それは視覚機能が持っている最大のコマ数と、145キロ以上の速度情報のコマが間に合わず、見て→決定し→打つという一連の動作までの流れの前に、ボールがミットに到着してしまうからです。
その速度球を克服するために、150キロマシンをひたすら練習させる指導者を見受けます。
ですが、そのような環境で馴染める選手は限られており、出来る人だけがプレイ出来る環境を生み出し、チームスポーツとは程遠い指導をしていることに繋がります。
速い球を打つためには、「ボールの軌道を見る→軌道を想定して考察する→正しい打撃フォームを作る」こと。チームの選手全体が、早い球に順応していくのです。
身体の機能を理解しそれに添った指導が怪我のリスク管理にも繋がります。
根性理論のスパルタ教育は、今の時代にはそぐわないのかもしれません。
まとめ
最高のパフォーマンスを発揮するまでの道のりは人それぞれですが、視機能を理解し身体パフォーマンスに繋げない理由はなんでしょう。これらを合わせることで、怪我のリスクも管理しつつ最高のパフォーマンスを発揮する選手を育成することができます。